■03

五月のゴールデンウィーク最後の日。陽日先生に呼び出されて職員室へ来ていた。
「悪いな、休日なのに呼び出して。」
「いえ、大丈夫です。今日は元々予定ありませんから。」
先生は申し訳なさそうに謝るけど、今日は部活もなければ出かける予定もないし、保健係や生徒会の仕事もない。だから、迷惑とは少しも思っていない。
「それで、私に何か用事ですか?」
「あぁ、それなんだけどな。実は今日、2年星座科に転入生が来るんだよ。それで、そいつに校内を案内してやってほしいんだ。」
5月という中途半端な時期に転校生が来るなんて思ってなかったから、少し驚いた。それにしても、学年も学科も違うのに、どうして私に頼んだのだろう?
「実は、今日来るのは女子生徒なんだよ。だからほら、学年は違うかもしれないけど女同士の方が気が楽だろうし...。って琥太郎センセが言ってたんだ。」
「そうなんですか!?」
こんな時期に転校生が来るだけでもすごいのに、それが女の人なら余計に驚いてしまう。でも、1つ上の先輩とはいえ女の人が増えることが嬉しかった。
「あぁ、今琥太郎センセが玄関まで迎えに行ってくれてる。名前はええと、だ。じゃあ、俺はこれから仕事があるから、後は頼むぞ。」
「はい、分かりました。」
そう返事をすると先生は走って職員室を出て行った。
それから暫く待っていたけど、先輩はいつまで経っても来なくて。もしかして迷っているのかと思い、廊下を探してみることにした。
すると、職員室とは反対の廊下で辺りを見渡しながら歩いている女の人を見つけた。制服を着ているし、まず間違いない。
それにしても、下は普通にスカートをはいているけど、上は男子制服のブレザーを着ていて、しかもスカーフではなくネクタイを締めているという、何とも不思議な服装をしている。
「えと、先輩ですよね?」
「うん、アタシはって呼んでくれて構わないよ。」
後ろから話しかけて見ると、先輩は振り返ってから笑顔で答えてくれた。
「あ、私は天文科1年の夜久月子っていいます。よろしくお願いしますね、先輩。」
「うん、よろしくね、月子ちゃん。」
「じゃあ早速校内を案内しますね。ついて来てください。」
そう言ってから歩きだせば、先輩も後ろからついてくる。
「まずは教室から案内しますね。先輩は星座科でしたよね?」
「うん。天文科とか神話科とかも興味あったけど、やっぱり中学の時からずっと星座について研究してたから。」
話しながら2年星座科の教室のドアを開ける。と、先輩は興味深そうに教室の中を覗き込んでいた。
その後生徒会室や職員室、資料室など特別教室を一通り案内して、それからお昼になったので食堂へお昼ご飯を食べに行くことにする。
中へ入ってメニュー表を取り、先輩に渡す。
「なんかどれも美味しそうで迷っちゃうなぁ。」
「私も、いつも来るたびに迷っちゃうんですよ。どれも美味しいからつい気になっちゃって。」
食堂の定食メニューは本当にどれも美味しくて。サイドメニューやデザートも美味しいから、来る度に迷ってしまう。
「うーん、ここはやっぱ無難にお魚定食ってことで魚座定食にしよ。あっ、デザートもあるんだ。この食堂スペシャルチョコレートパフェとか美味しそう!」
「じゃあ私は蟹座定食で。食券買いに行きましょう。」
「うん。」
それぞれが食べるメニューを決めて、一緒に食券を買いに行く。
と、後ろから突然物音がした。先輩が誰かとぶつかってしまったみたい。
相手はケーキが大量に載っているトレイを持っている。もしかしてと思って覗き込んで見ると、予想どおりそこにいたには宮地君だった。
「あっ、ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですか?」
「は、はい、俺は大丈夫です。」
「ほんとごめんね、前方不注意だった。」
「先輩、大丈夫ですか? それに宮地君も。」
先輩の横に立ってそう言うと、2人共コクリと頷いた。
「あ、そう言えば2人は初対面だよね? えっと、彼女は先輩。今日ここに転入してきたの。それから先輩、彼は宮地龍之介君。私と同じ1年生で、学科は星座科。弓道部の部活仲間なの。」
2人にお互いのことを紹介すると、揃って眉をひそめて何か考え込んでしまう。
「も、もしかして、なのか?」
先に口を開いたのは宮地君の方。
「...やっぱり、龍だよね。久しぶり。」
「あぁ、久しぶり、だな。...。」
どうやら2人の話を聞いていると、2人共知り合いみたい。でも、いったいどこで知り合ったのかな?
「あ、あの、2人共知り合いなんですか?」
「う、うん。アタシ達、幼馴染、なんだ。家が隣同士なの。」
思い切って訪ねて見ると、先輩が答えてくれた。
「そ、そうなの!?」
「あぁ。と言ってもがアメリカに行ったきり会ってなかったから会うのは4年ぶりなんだ。」
...今、凄いこと聞いちゃった気がする。
だって、先輩がアメリカにいたなんて一言も聞いてないんだし。
「先輩、アメリカにいたんですか!?」
「うん、両親の仕事の都合で。...って、言ってなかったっけ?」
「い、言ってないです!」
「ご、ごめん。言ったつもりだった。」
先輩は苦笑いしながらそう言う。
「あ、そう言えば私達お昼ご飯買いに来たのにまだ買ってませんね。私買いに行ってくるんで、先輩は先に席に座っててください!」
私はそう言ってから、今度こそ券売機へと向かう。途中でふと振り返れば、先輩と宮地君が楽しそうに話していた。



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「それにしても、こんなとこに龍がいるなんて思ってなかったな。」
「俺もだ。ここでに会うとは思わなかった。」
「あ、でも、鷹兄がここのこと知ってた理由は分かった気がする。」
「兄貴が...?」
突然兄貴の名前が出てきたのには少し驚いた。
「うん、こっちに来る少し前に龍の家に電話掛けたら鷹兄が出て、高校どうしよーって言ったらここのこと教えてくれたの。でも、龍がいるってことはこれっぽっちも言わなかったけど。」
「そうか。」
平静を装ってそう答えるが、内心ものすごく驚いていた。
が俺の家に電話したとか、兄貴がこの学園のことを話したとか、そういうレベルの問題ではない。
がこの学園の存在を知らなかったことに驚いたのだ。
...奴の兄が、この学園の卒業生だというのに。
「龍、どしたの? さっきからボケーっとしちゃってさ。」
「べ、別に何でもない。」
「なら良いけど。それより、さっきからケータイ鳴ってるよ。」
そう言われて耳を澄ませてみると、確かに聞き慣れた着信音が聞こえてくる。制服のポケットから携帯を取り出して画面をみると、電話をかけてきているのは兄貴だった。
「悪い、兄貴からだから出させて貰う。」
「鷹兄から? 分かった。」
一言断ってから席を立ち、廊下へと出る。
『やっと出た。龍之介、だね?』
携帯から聞こえてくるのは兄貴の声ではない。それに、第一兄貴だったらまず俺のことを龍之介と呼ばない筈だ。
『ごめん、鷹介じゃなくて僕で。慧っていえば分かってくれるよね?』
慧、と言えばの兄の名前だ。それにしても、何故兄の携帯から俺の携帯に慧さんがかけてくるのか。
『君の携帯の番号が分からなかったから鷹介に携帯を借りたんだ。どうしても話しておきたいことがあるから。』
「話しておきたいこと、ですか?」
『うん、のことなんだけどね。彼女、今日から星月学園に転校することになったんだけど。』
「知ってます。さっき食堂で会いましたから。」
『そっか。なら細かいことは説明しなくてもいいよね。』
彼はそう前置きをしてから、静かな声で話し始める。
『君に頼みたいことが1つあるんだ。何があっても僕が星月学園の卒業生だってことを、に言わないで欲しい。それから、今僕が日本に来てて鷹介と一緒にいることと、後君に電話してることも黙ってて欲しい。じゃあ、頼んだよ。』
一方的に話したいだけ話し、切られた電話。
訊きたいことは山ほどある。
何故慧さんが星月学園の卒業生であることをに知らせてはいけないのか。何故慧さん日本にいることをが知らないのか、一緒に来たんじゃないのか。
けれど考えたところでどうしようもない。今の俺に出来るのは、慧さんに言われたことを実行するだけだから。



(今のではないことに、この時の俺はまだ気づいていなかったんだ。)

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予告通りつっこちゃん&龍クン目線の第3話です。
その所為かやたら長くなりましたorz
なんかどっちも偽物臭いと思ったら負けです←
それより何で龍クン目線の部分がこんなにもシリアスチックな雰囲気に...
そしてさりげなく声だけ主人公兄の(あきら)さん登場 オリキャラサーセン;;
ちなみに慧さんと宮地兄は同級生です。だから仲良しなんだ。
宮地兄はガルスタ読んで一目惚れしましたw
もう宮地家全員かっこよすぎるっ!!
てか、ホントは宮地兄も喋らせたかったけど口調分かんなかったから(以下略
でも夏FDやった後に必ず出します! だから早く夏FD出してっ!!
例のごとく、龍クンと慧さんの会話と、それからラストの行は伏線です。そのうちネタばらしします。
そのためには慧さんと宮地兄が重要なんだ実はw