■02
校門をくぐって真っ直ぐ進むと、校舎の入り口のところに白衣を着た男の人が立っていた。
「お前が転入生のだよな?」 「あ、はい、です。」 話しかけられたのでとりあえず返事をしてみる。アタシのことを知っているということはこの学校の教師か何かなのだろうか? 「俺はこの星月学園で保健医をやってる星月琥太郎だ。よろしくな。」 星月と星月、読みは違えど同じ漢字が使われている。もしかして理事長か誰かと関わりがあるのだろうか? 「どうした、急に固まって。」 「い、いえ、何でもないです。ただ、保健医さんの星月って名字がが星月学園の星月っていう字と同じだから、もしかしたら何か関係あるのかなってちょっと思っただけですから。」 「お前、以外と鋭いな。初対面で気付く奴なんてそうそういないんだが...。」 「ふぇ、何か言いました?」 保健医さんが何かを呟いたけど、あまりに小声過ぎてうまく聞き取れなかった。 「いや、何でもない。ただの独り言だ。気にしないでくれ」 独り言と言われてしまったらそれ以上詮索するわけにはいかないのでとりあえずこの件については終わりにすることにしておく。 「いきなりで悪いんだが、俺はこれから仕事があるんだ。代わりに他の奴に案内するように頼んであるから、そっから入って職員室へ向かってくれ。」 「分かりました。」 そう言うと保健医さんはアタシが今来た方向、つまり校門の方へ向って歩いて行く。 そして、アタシは逆に校舎の中へと入った。 が、そこから先どちらへ進んでいいかが分からない。 ただでさえ極度の方向音痴なのに、地図を持ってなければ案内図もない。分からなくなるのも当然だ。 とりあえず適当に進んでみるけど、目的地に辿り着けそうになくて。 そのまま暫く彷徨っていると、正面から女の子が駆け足で寄ってくる。制服を着てるということは、彼女が学園唯一、いや今はアタシが来たから2人しかいない女子生徒の1人だろう。 「えと、先輩ですよね?」 「うん、アタシは。って呼んでくれて構わないよ。」 彼女の高くて綺麗な声に、アタシは思わず笑顔で答えていた。 「あ、私は天文科1年の夜久月子っていいます。よろしくお願いしますね、先輩。」 「うん、よろしくね、月子ちゃん。」 「じゃあ早速校内を案内しますね。ついて来てください。」 アタシは言われるが儘に彼女について歩いて行く。もしかして、保健医さんが言っていた案内役とは彼女のことなのだろうか。 「まずは教室から案内しますね。先輩は星座科でしたよね?」 「うん。天文科とか神話科とかも興味あったけど、やっぱり中学の時からずっと星座について研究してたから。」 喋っていると月子ちゃんが教室のドアを開けてくれたので、中を覗き込んで見る。専門学校ではあるが、教室の中はどこの学校ともそんなに変わらず、至って普通な感じだ。 その後は生徒会室や職員室、資料室など特別教室を案内してもらい、お昼になったので食堂へお昼ご飯を食べに行くことにした。 時刻は12時半を少し過ぎたところ。普通なら混んでいる時間帯なんだろうけど、今はそんなに人はいないみたいだ。 入り口のところで突っ立って辺りを見渡していると、月子ちゃんがメニュー表を取りに行って来てくれた。 表紙を開いて中を見てみると、美味しそうな定食メニューが並んでいる。定食の名前が黄道12星座のものになっていて、それぞれの星座のイメージで作られているようだ。 「なんかどれも美味しそうで迷っちゃうなぁ。」 「私も、いつも来るたびに迷っちゃうんですよ。どれも美味しいからつい気になっちゃって。」 「うーん、ここはやっぱ無難にお魚定食ってことで魚座定食にしよ。あっ、デザートもあるんだ。この食堂スペシャルチョコレートパフェとか美味しそう!」 「じゃあ私は蟹座定食で。食券買いに行きましょう。」 「うん。」 アタシと月子ちゃんは連れだって食券を買いに行く。 と、その途中で1人の男子生徒とぶつかってしまった。 手の上にはトレイが載せられていて、そこには定食...ではなく大量のケーキが載せられている。幸いなことに落ちたりはしなかったが、バランスを崩してしまったようだ。 「あっ、ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですか?」 「は、はい、俺は大丈夫です。」 「ほんとごめんね、前方不注意だった。」 「先輩、大丈夫ですか? それに宮地君も。」 いつのまにか、少し前を歩いていた月子ちゃんがアタシの横に立っていた。 「あ、そう言えば2人は初対面だよね? えっと、彼女は先輩。今日ここに転入してきたの。それから先輩、彼は宮地龍之介君。私と同じ1年生で、学科は星座科。弓道部の部活仲間なの。」 宮地龍之介、どこかで聞いたことがある気がする。少し考えた後で、幼馴染と寸分違わず同じ名前であることに気付いた。 幼馴染の彼も甘いものが好きだったし、もしかして本人かもしれないと錯覚さえさせる。 「も、もしかして、なのか?」 ...どうやら錯覚ではなかったようで。 「...やっぱり、龍だよね。久しぶり。」 「あぁ、久しぶり、だな。...。」 目の前の彼は、正真正銘アタシの幼馴染だった。 |