■02

それから、何度か魔物たちを倒しながら山を降り続け、漸く船が到着するという場所まで辿り着いた。
「あれ? まだ船が到着してない。私達の方が、先だったかな。」
確かに。彼女の言う通り船と思しきものは辺りにない。
「ねぇ、。ひょっとしたら、あなたは記憶喪失なのかもしれないね。」
そう言われて、アタシは首を縦に振った。何も思い出せないというこの状況は、正に記憶喪失と形容するに相応しいだろう。
何か、原因があって...。そういう状態になっているんじゃないかなぁ。
「......。」
何かしら原因があったとしても、それすらも思い出せないのだから、結局何一つ分からないことに変わりはなくて。だから、こうしてただ黙って下を向くことしか出来ない。
「...うん。今は、無理に思い出そうとしない方がいいよ。」
そんなアタシの心の中を察してか、カノンノは再度声を掛けてくれた。その声に、アタシは顔を上げる。
...そうだ、何も今ここで無理に思い出そうとしなければならない訳ではないのだ。きっといつか、自然と思い出せる時が来るだろうし。何より、思い出そうとして直ぐに思い出せる程、記憶喪失というものの原理は簡単ではない。
「あなたが良ければ、これからどうしていけばいいかを一緒に考えるよ。」
「...ありがと、カノンノ。」
そう呟く様に言うと同時に、どこかからか機械音が聞こえてきた。
「船が来たよ!」
空を見上げながらそう言うカノンノに合わせて上を向くと、そこには確かに船が来ていた。ただし、下に流れている川の上を走っているのではない。空を飛んでいるのだ。
その真実に驚愕しつつ、彼女に案内され船の中へ入った。
「お疲れ様、カノンノ。あなたが魔物を討伐してくれたお陰で、ペカン村の人達の移民は無事に済んだよ。」
入ってすぐの部屋にあるカウンターに向かうカノンノに付いて行くと、そこにいた水色の髪の女性がカノンノに話しかけた。
「ところで、そちらの女性は?」
「彼女とは、ルバーブ連山の途中で出会って...。」
「それじゃあ、まずは自己紹介からね。わたしは、アンジュ・セレーナ。あなたの話を聞いてもいいかな。」
女性―――アンジュとカノンノの話を軽く聞き流していたアタシは、いきなり自分に話を振られ少し戸惑う。それでも、とりあえずは平静を装って彼女の問いかけに答えることにした。
「アタシは=。悪いけど、それ以外にカノンノと出会う前の事で話せる事は無いわ。と言うのも、自分でもよく分からないけど記憶喪失になってしまったみたいなの。覚えているのは、気が付いたらルバーブ連山と言う場所にいて、目の前にはカノンノという名の少女がいた。それが今ある記憶の最初よ。そして、彼女と出会ってからは遭遇した魔物を倒しながら、一先ずここに連れて来てもらった、それだけよ。」
「...そう。記憶が無いなら、どこへ行っていいかも分からないよね。記憶が戻るまで、ここに置くのは構いません。でも、話を聞く限り体力には自信がある様だし、働いてもらいましょうか。」
どうにか、記憶が戻るまでの間の居場所は確保出来そうだ。それに、体を動かしている間は余計な事は考えずに済む。
この船に住ませてもらう代わりにギルドで働いて返す。それが、アタシにとっても、カノンノやアンジュを始めとするメンバーで構成されたこのギルドにとっても、最善の策だろう。
「いいわよ。タダで置いてもらうのも気が引けるし。アタシにできる事があるのならばやらせてもらうわ。」
「それじゃあ、今からあなたをギルド『アドリビトム』の一員として迎えるね。」
「分かったわ。
...一応訊いておくけど、『アドリビトム』ってどういう意味かしら?」
「このギルドの名前の事かな?古代神官語で『自由』という意味よ。ギルドというのは、人々から寄せられる依頼をこなす、いわゆる何でも屋さんと思ってくれればいいかな。」
とりあえず、自分の中にあるギルドのイメージと、彼女の差すギルドというものが大体一致したことに安堵する。そして、『アドリビトム』―――『自由』という意味の名は、国や他の組織には囚われず自分達の力で他人の為に仕事をするというギルドに相応しいものだと思う。
「でも、仕事の話よりも、まずは他のメンバーとの顔合わせが必要よ。みんなの所へ行って、挨拶してらっしゃい。それが終わったら、仕事について教えるから。カノンノ、みんなへの挨拶に付いて行ってあげてくれる?」
「はい。」
確かに、このギルドで働く以上はメンバーについて知っておく必要がある。どうやらカノンノが仲立ちしてくれる様なので、一先ずスムーズに顔合わせは出来るだろう。
「それしゃあ、このギルドの拠点となる船『バンエルティア号』の艦内見取り図をあげるね。」
そう言うカノンノから図をもらい、早速広げてみる。と、この船の中にある部屋の見取り図と名称が丁寧に記されていた。
そして、手書きの可愛らしい文字で部屋ごとに数人ずつ、名前が書いてある。どうやら、数人に一部屋ずつスペースが割り振られているらしく、どの部屋が誰の部屋なのかメモをしていたのだろう。
「これを見たら、これから行く場所がわかりやすいよ。迷ったら見てね。」
「了解。ありがとう。」
「今、下の階のみんなは仕事で外出中なの。下の階にはいけない様になってるから注意してね。
まずは、一階のみんなに挨拶しに行こう。
そう言って歩き出すカノンノに、アタシは地図を見ながら付いていく。どうやら、最初に向かっているのは一番近い研究室の様だ。
扉を開けて中に入る、と、そこには眼鏡をかけた男性がいた。
「ウィルさん、彼女が新しく入ったカナタよ。」
「初めまして、アタシは=アタシは
よ。今日からここでお世話になるわ。
「ホールでの話は聞こえていた。オレは、ウィル・レイナード。よろしく頼む。」
カノンノに続いて、アタシとウィルは互いに自己紹介をする。ホールでの話が聞こえていたのなら、記憶喪失については話す必要無いだろう。
「ここへ来る前も、故郷でギルドに所属していた。本業は博物学者をやっている。
そう言えば、記憶喪失と聞いたが...。君は、ここへ来る前に世界樹が光るのを見たか?」
やっぱり、記憶喪失の事も聞こえていた様で。その事については何も言われなかったものの、代わりとでも言うように世界樹と言うモノについて訊かれた。世界樹とはこの世界の中枢にあり、全ての生命を司る超生命体であるという事は理解しいている。が、その世界樹が光ったかどうかと尋ねられても、それ以前に今記憶がある範囲で世界樹を見た事は無い。だから、世界樹がどんな樹なのかも分からないのだ。
「悪いけれど見ていないわ。それ以前に、記憶がある範囲では世界樹というモノを見た事が無いの。だから、世界樹の姿形すら分からないと言った方が正しいわね。」
「そうか、見ていないのか。オレはちょうど、甲板から見えたのだが...。今まで観測された事が無い現象だったからな。それについて、君が何か知っていたりするのか聞いてみたかっただけだ。
記憶喪失の君が知っているはずもないが、はるか昔から伝わる『予言』の話だ。」
「...『予言』?」
予言や伝承を鵜呑みにして信じるという訳でもないが、単純に興味を持てる話だと思う。
「現実的ではないし、ありえないと考えているのだが、記憶が無い、というのが気になってな。変な事を聞いてすまなかった。君の記憶が早く戻る事を祈る。
では、今後もよろしく頼む。」
「えぇ、こちらこそ。」
結局『予言』については聞きそびれてしまったが、今はメンバー達との自己紹介を済ませることが先決。
そう思い、それ以上は追及せずウィルと別れ、他の部屋へと向かう事にした。



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中途半端ですが長くなるので一端ここで切ります;;
さて、原作沿い過ぎて原作プレイ済みだといまいち面白くないプロローグですね←
ま、今は超が付くほど原作沿いですが、ラザリスが出て来る頃にはかなり捏造が入り始めますので。
逆にいえば、それまではこんな感じに気持ち悪い程原作沿い...って言うのはアタシも嫌なので、いつもの如くテキトーに伏線散りばめてオリジナル要素入れていきます、多分←
次でプロローグは終わりだと思います。さて、そこまで行ったらストックなくなるから更新する前に下書き貯めてこよー←